ATP(+AMP)測定法を用いた管理

ATP(+AMP)測定法を用いた管理について

ATP(+AMP)測定法を用いた管理について

図1

保健所では、環境衛生に関わる業務において、環境衛生営業施設の許可確認、衛生市道を行っている。
所管する施設としては、小規模なものでは、理容所、美容所、クリーニング所、大規模なものでは、ホテル、旅館、公衆浴場、プール等がある。環境衛生営業施設の衛生管理上でなかなか解決できない問題として、レジオネラ属菌対策がある。
レジオネラ症はレジオネラ属菌が原因で起こる四類感染症で、感染して肺炎やインフルエンザ様の発熱(ポンティアック熱)を引き起こす。
循環式浴槽のろ材表面や循環配管などに生じた、生物膜に生息するアメーバの細胞内などで増殖した、レジオネラ属菌(図1)に汚染された水の飛沫を吸入することにより感染が起こる。

図2

実際の公衆浴場でレジオネラ対策がどうなっているか、当所の例を用いて説明する。
レジオネラ属菌の水質基準は、東京都の条例では100ml中に10CFU未満(検出限界未満)であれば適、それ以上であれば不適となっている。1〜10CFU未満の場合、水質不適とはならないが、改善指導の対象としている。
当所の管轄の行政検査による不適率の推移を図2に示した。対象となる施設が、当初の管轄には100件あまり有り、循環式の浴槽、加温式のプール、ジャグジーなどがある。
不適率はH17年が約20%で、年々改善はしているが、毎回不適なところもあれば、良い時と悪い時を繰り返す施設もあり、万全な状態には至っていない。
なぜ不適が改善されないのか理由を考察すると、現行の培養法による検査では結果判明まで2週間を要し、費用も1件1万円前後で、すべての入浴施設で頻繁にレジオネラ属菌を調べられないという現状が挙げられる。このように、迅速にその場でレジオネラ属菌がいるかどうか判定する方法の開発は、レジオネラ対策が始まって以来の課題である。 近年、監視現場において迅速検査が可能なATP(+AMP)測定器を用いて、浴槽水のレジオネラ属菌との関連を検証する試みが報告されるようになってきた。
当所においても、平成20年度よりATP(+AMP)測定法の簡易性と迅速性を公衆浴場のレジオネラ対策に利用できないかということを調査してきた。その結果、一定の有効性を確認したので紹介する。

図2

測定には、キッコーマンのルミテスターPD-10およびルミテスターPD-20を用いた。
操作方法は、図3のように試薬の先端部を外して、マイクロピペットで200ul採取して、アルミシールを突き破って試薬に加えた。
その後、本体に戻して綿棒を押し込んで、中間の液も落として検水と混ぜ、試薬を良く溶かして測定した。

図4

3年間で当所実施分として約370検体、その他H22年は、全国9保健所からデータを集め、総数860検体のATP+AMP値(RLU値)とレジオネラ属菌の検出率の関係を図4に示した。
25RLU以下になると検出率が0.3%(400件中1)と極めて低くなった。
25〜80RLU未満だと平均で5.2%と上昇し、80〜140RLU未満になると24.7%と4件に1件は不適となった。
より高いRLU値では検出率よりも高くなると思われたが、平均して20%前後に収瞼した。
ここで、重要なポイントは25RLU未満ではレジオネラは検出されず、80RLU以上では検出率が上昇することがわかった点である。

図5

図5は、同じATP+AMP値と検出率の関係を別の形で示したもので、これは当所の3年間の結果だけをまとめたものである。
図中の、青色はレジオネラ属菌が10CFU以上で不適となった部分、水色は1〜10CFU未満の部分である。
25RLU未満では検出されず、25〜80RLU未満では不適が5%ながら水色の部分が20%近くあった。
検出率は、80〜140RLUでピークとなった。
この結果から類推して、ATP+AMP値は必ずしもレジオネラ属菌の検出率と相関するのではなく、レジオネラの温床となる生物膜が、配管系統の中にどれくらいあるかを示すものと考えられた。
つまり、80〜140RLU未満においては、水質基準を超過するほどのレジオネラ属菌を発生させる量の生物膜が存在している状況、25〜80RLU未満においては、水質基準を超過しない程度のレジオネラ属菌を発生させる量の生物膜が存在している状況を、示しているものと考えられた。

図6

図6に、公衆浴場の日常管理の中にATP(+AMP)測定を導入した場合の活用例を示した。
ATP(+AMP)測定実施のタイミングは、通常は浴槽にお湯を張って循環装置を動かした、入浴者が入る直前の状態が良いと考えられる。
理由は、入浴者が多いと持ち込み汚れが多く、配管の状態を把握しにくいためである。
危険ゾーンと要注意ゾーンでの改善装置は、実施内容は同様でるが、実施時期に違いがある。
一方、定期的な配管消毒(高塩素濃度の浴槽水等を循環させることにより、配管内部の生物膜を除去する方法)は、レジオネラ対策上特に重要であるにもかかわらず、生物膜が完全に除去されたかどうかの効果判定が難しいことが、対策の徹底を妨げる要因となっていた。
本調査では、配管消毒後の効果測定にもATP(+AMP)測定が有効であることが判明した。

ATP(+AMP)測定のメリット3点

  • レジオネラ症の感染源になりやすい循環式設備において、ATP(+AMP)は系統内部の生物膜発生を推定する指標となる。
  • ATP(+AMP)値を安全ゾーンで管理することにより、レジオネラ症発生防止に寄与できる。
  • 配管消毒の効果を把握できる。

ATP(+AMP)測定法を用いた浴槽水の管理は、浴槽水のレジオネラ汚染の有無を知るのに培養期間として2週間を要するため即時的な状況判断や配管消毒の効果測定が困難であった従来の管理とは異なり、現在目の前にある浴槽水のレジオネラ汚染のポテンシャルを迅速かつ簡易に把握できるという意味で、新しい考え方の管理方法と言える。
入浴施設等の衛生管理に本法を導入することにより、効果的な管理方法の構築及び不適時の迅速な対応が可能となり、このことはレジオネラ対策をより一層向上させるものと思われる。
本法は今後、入浴設備等以外に冷却塔などのレジオネラ汚染が懸念される設備の衛生管理にも応用されることが期待される。

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群馬県貯水槽管理協同組合